一期一会
「駅がすぐそこって便利で良いね」

「だろ。夏にある花火大会もベランダから観えるしな」

「あぁアレね。毎年ニュースでやってるよね」

「そうそうソレ。人めちゃくちゃ来るけどウチでまったりと眺められるからお得」

「良いねー。特等席みたいだね」

「一緒に行く?」

「え?」

「花火大会」


私はその言葉に彼の方へと勢いよく顔を向けた。

すぐに中原君と目が合うとその瞬間、心臓が速くなった。


「うん……」

「楽しみだな」


頷いて返すと、中原君は私の好きな優しい笑顔になった。

ヤバイ……心臓が破れそうなくらい、動悸がヤバい……


「あ。そういえば、今日サッカーの日本代表戦だな」

そこに中原君がいつもみたいな他愛も無い会話を切り出した。

「そ、そうだね、私も観るよ」

心臓がマッハな私は平常心に戻そうととりあえず返す。

実はこの前、サッカーの試合をTVで観てからサッカーにハマってしまった。

「ルール分かってきた?」

「うん、少しずつね。オフサイドも覚えたよ。選手の名前はあんまり分かんないけど……」

「最初はそんなもんだよ。あ。もう駅だな」

「うん。そうだね」




そんな話をしていたらあっという間に着いた。
中原君に促されて駅の出口の屋根に入ると彼は傘を閉じた。

その時、さっきより離れてしまった距離に寂しくなる。

好きだなんて言えないくせに、何て勝手な私……。


「改札口まで送る」

「良いよ。すぐそこだし。誕生日の時送ってもらったから今日は私が見送る」

「じゃあこの傘持ってって」

中原君にペンギンの付いた傘を差し出されて受け取る。

「うん。ありがとう……」

今日も楽しいことばっかり。
形に残るものまで貰っちゃったし……。

「家帰ったら電話して」

「え?」
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