一期一会
「お――――」


おはようと声を掛けようとしたが、成実ちゃんの目の前に立っている人物の後ろ姿を捉えた瞬間、固まってしまって私の口は『お』の形のまま。


後ろ姿だけど、彼だ。
中原君。


わざわざ反対側のドアから入るのも……。
でもそこも通りづらい……。


「瑞季!?髪が短くなってるから、誰かと思った!」

戸惑っている私の存在に気付いた成実ちゃんは私に声を掛けてきた。

私は驚いて一瞬固まってしまったが、咄嗟に焦点を成実ちゃんだけに合わせて中原君を見ないようにした。


彼はこちらを見ただろうか……。

もういいや、このまま勢いで通ってしまえ!


「おはよう」

成実ちゃんに挨拶をして中原君の方を見ないように平静を装いながら二人の間を通り抜けた。
少し彼が視界に入った時、驚いた表情をしているように見えた気がした。
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