略奪"純"愛 『泣かすなら俺がもらう』

俺たちの以前と変わらない掛け合いを、ニヤニヤと笑いながら聞いていた部内の人々が、結の返事の直後に息を飲んだ。

そのため、部内に一瞬の静寂が訪れる。

か、その静寂を破って、春山さんが口を開いた。


「お前ら〜！！
TPOをわきまえろっつっただろ！！
飲み会中のプロポーズもどうかとは思うが、
就業時間内の公開プロポーズはもっとない
だろう！？」

「………すみません。」

結は赤い顔を伏せて謝るけど、おれは、

「だって悠長な事してて、結が他の奴に
取られたら困るじゃないですか！？」

と真っ当な権利を主張した。

すると、結が切れた。

「はぁ！？
バカじゃないの！？
ここは素直に『ごめんなさい』でしょ！？
なに、とんでもなく恥ずかしい事、口に
してんのよ！！」

「本心を言って何が悪い！」

「本心なら言ってもいいと思ってるの？
そしたら、私、天と喧嘩した翌日には、
『天なんて大嫌い』って言うわよ。」

はぁ！？

「言えるもんなら、言ってみろよ。
翌日に持ち越すような喧嘩、ぜってぇ
しねぇから！」

「そんなの分かんないじゃん！」

「分かるさ。
結に嫌われたままじゃ、俺が寝られねぇもん。」

結は、全っ然、分かってない！

「っ！？」

結が絶句した。

「お前、この10ヶ月、俺がどんな思いでいたか、
知らねぇから、そんな事言えんだよ。」

俺が、どれだけ結に会いたかったと思ってる？
俺が、どんな思いで、結に会いに行くのを我慢してたと思ってる？

「ハイハイ！ そこまで！
お前ら、それじゃ、夫婦漫才どころか、
痴話喧嘩にもなってない、ただのノロケだぞ。
聞いてる方が恥ずかしい。」

春山さんが呆れたように言うと、部内にどっと笑いが巻き起こった。

「重ね重ね、すみません。」

結は春山さんだけではなく、各方面に頭を下げた。

そして、怖い顔をして、俺の所へツカツカと歩み寄る。

「みんなに不快な思いをさせたんだから、
謝りなさい。」

そう言うと、俺の頭に手を伸ばして、頭を下げさせた。

148㎝に頭を下げさせられる188㎝。

部内は一層、笑いに包まれた。