Adagio
「それじゃ、私こっちだから。おつかれさま、また明日ね」

「おつかれさまです。……ありがとうございました。あの、仕事に関係ない話までたくさん聞いてくれて。何かをしてもらうばっかりで、宇美さんにどう返したらいいか」

「ええ? 私に返してどうすんの」
 階段の手前で宇美は足を止めた。

「え、だって」
「嬉しかったな、とか良かったなって思うところがあったなら、後輩に同じことをしてあげなさい。返すところはそっち」

 当たり前のように言い、じゃあね、と軽く手を上げる。有紗は恐縮して頭を下げた。

 すらりとした後ろ姿が完全に見えなくなるまで見送ってから、有紗はJRの改札口に向かった。

悩みに悩んだ宿題が終わり、ついでに坂巻の件まで吐き出したせいか、ここ数日で積もった心の澱までどこかへ行ってしまったようだった。

「恋、かあ」
 気が抜けた途端、ひとり言が自然と口をついて出た。 
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