Adagio
「綿貫さん、おつかれさま」
「あっ……」
ぱっと振り向くと、坂巻が微笑んだ。一目見ただけで分かる仕立ての良さそうなシャツには、今日も綺麗にアイロンが掛かっている。
短く刈られた髪と、すっきりと出した額。涼しげな目元にさえ清潔感があり「理想のタイプといえばこの人しかいない」と、有紗は見るたびに思う。
「それ重くない? よかったら、あとで人事部持って行こうか」
厚意をうれしく思いながらも、勘違いしてはいけないと、有紗は強く自分に言い聞かせた。坂巻はいつも優しく声を掛けてくれる。けれど、それは特別なことではないのだ。
「大丈夫です」と笑顔で返事をし、サブレの礼をしようとしたところで、坂巻の視線が華美に向いた。有紗は喉の先まで出かかっていた言葉を飲み込んだ。
「佐倉さん、今ちょっといいかな。さっきの、顧客サポートセンターから回ってきた、システムエラーの件なんだけど」
「あ、はい」
華美の声がわずかに高くなった。
「あっ……」
ぱっと振り向くと、坂巻が微笑んだ。一目見ただけで分かる仕立ての良さそうなシャツには、今日も綺麗にアイロンが掛かっている。
短く刈られた髪と、すっきりと出した額。涼しげな目元にさえ清潔感があり「理想のタイプといえばこの人しかいない」と、有紗は見るたびに思う。
「それ重くない? よかったら、あとで人事部持って行こうか」
厚意をうれしく思いながらも、勘違いしてはいけないと、有紗は強く自分に言い聞かせた。坂巻はいつも優しく声を掛けてくれる。けれど、それは特別なことではないのだ。
「大丈夫です」と笑顔で返事をし、サブレの礼をしようとしたところで、坂巻の視線が華美に向いた。有紗は喉の先まで出かかっていた言葉を飲み込んだ。
「佐倉さん、今ちょっといいかな。さっきの、顧客サポートセンターから回ってきた、システムエラーの件なんだけど」
「あ、はい」
華美の声がわずかに高くなった。