Adagio
「綿貫さんもしかして、ここによく来てる?」
「はい、週一くらいですけど」

 言った後に、これでは友人が誰もいないと思われてしまうのではないかと心配になったが、

「実はわたし、初めてなの。ここでレシピがもらえるっていう話を、顧客管理課の同期に教えてもらって来たんだけど、コース料理なんてなかなか食べないから、今さらテーブルマナーを調べてたりして。綿貫さんが来慣れてるみたいでよかった」と、華美はそんなことを気にする様子も見せずに微笑んだ。

 ちらりと覗いたスマートフォンの画面には、マナーについてのあれやこれが映っている。言葉がどうやら本当らしいことがわかると、有紗はようやくほっとした。

「わたしも詳しくはないんですけど、でも美味しくいただけばそれで作った方も喜んでくれるかなって」

「あ、そっか。そうだよね」
 華美は納得したように深く頷いて、スマートフォンをバッグにしまった。
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