Adagio
「綿貫ー、ちょっと」
 宇美が有紗を呼んだ。有紗は何かアドバイスをもらえるのかと期待したが、

「コピー用紙足りなくなりそうだから、総務かどこかで一束借りてきてもらえる? 午後には返せるから」と、それだけ言った。

 親に突き放された子供のように、その場から動けなくなっていた有紗を見ながら、宇美ははあ、と芝居がかった溜め息を落とした。

「別に私の言ったとおりにしなくてもいい。どうしたらいいのか自分で考えて、教えてあげなさい」
 返事をする代わりに頭を下げ、有紗はようやくエレベーターホールに向かった。

(見ただけで仕事を理解してしまう人に、わたしが一体何を教えるっていうんだろう)

 器量の良い首藤ならば、TODOリストだけ渡せば、あとは自分で調べて勝手に仕事を進めていくだろう。そうなるとまた、今度は自分自身がやる仕事を探さなくてはならない。
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