Adagio
(今日はガラス窓でも拭いて、給湯室の掃除をして、観葉植物に水遣りして。あとは……)

 今日一日は乗り切れても、明日はまた何か他の仕事を探さなくてはならない。担当している仕事がもっと多ければ、首藤の存在は喜ばしいものだったはずだが、有紗にとってはただの重荷でしかなかった。

そもそも、仕事自体をあまり回してもらえないのは、キャパシティ不足が原因で、自分自身もよくわかっている。

 到着した四角い箱の中に閉じこもると、有紗はゆっくりと息を吐き出した。いつもなら総務部に顔を出すのは楽しみのうちの一つなのだが、表情は曇っている。

 俯いたままエレベーターを降りようとすると、有紗の肩に誰かの手が触れた。
「ごめん」

(この声は、坂巻さん)
 有紗ははっと顔を上げた。

「ぶつかりそうだったから、つい」
 坂巻はゆっくり手を下ろした。有紗の様子がいつもと少し違うことに気が付いたのか、どこか心配そうな顔だ。
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