Adagio
相手の表情は、自分の表情を鏡のように映す。こちらが不安を抱えて冴えない顔をしていれば、相手の表情にそれが同じように映るものだ。有紗は反射的に笑顔を取り繕った。

「コピー用紙、切らしてしまって。坂巻さんのところ、余裕ありますか」
「うん。ひと箱頼んだばかりだから、いくらでも」

「ひと束だけお借りしてもいいですか? 午後こっちも届くみたいなので、そうしたら返しにいきますから」
「わかった。ちょっと待ってて」

 坂巻の唇の端が微かに上がる。そういえば、坂巻もどこかへ行くところだったのだと、左にあるビジネスバッグを見て思い出した。

システム課に折り返す背中を見送りながら、気の利かなさにまた落ち込みそうになってくる。

「綿貫さーん」
 肩を落としていた有紗に声をかけてきたのは華美だった。席を立ち、こちらに向かってきた。
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