Adagio
(坂巻さんに特別な気持ちを持っちゃ駄目だ。だって、坂巻さんは佐倉さんの好きな人なんだから)

 尊敬する、大好きな二人だからこそ邪魔をしたくない。どうせ華美と比べて全てにおいて劣る自分が選ばれるわけなどないのだ。だったら、さっさと身を引いて華美の恋でも応援した方がいい。

 今まで、たくさんのことを割り切って生きてきた。それらと何ら変わりはないはずなのに、苦しくなるのは何故だろう。有紗はコピー用紙を抱えて、戻ってきたばかりのエレベーターに乗った。

 気の重さを振り切れないまま人事部に戻ると、有紗に気付いた首藤が待ち構えていたかのように手をあげた。

「綿貫さーん」
 何か質問でもあるのだろうか? そう思って慌てて首藤の元に戻ると、「入力し終わった書類、どうしたらいいですか」と席を立ち上がった。

「え、もう?!」
 毎回数時間かけてやっていた仕事が、こんな短時間で終わらせられるものだろうか。
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