君と過ごした冬を、鮮明に憶えていた。
「朝から喧嘩しない」
 2人の間に割って入ったのは義父だった。反応したのは紗和だけで、倖也の方は無視を貫いていた。
「...いってきます」
 やがて通学の時間になり、小さい声でその場を後にした。別に何も言わなくても、誰も私のことは気にも留めないが。
 重い扉に手をかける。ギィ、という音ともに、扉は開かれた。
 歩幅。呼吸。角度。その全てが、どれも毎日同じにし、歩き出す。途中、スクールバッグの持ち手が垂れ下がっても、何かを変更することなく、肩にかける。
 数メートル程歩き、背後から荒い息遣いと足音が近付いて来た。気が付かない振りをして、歩き進める。
 やがて、
「冬!」
 そんな声が聞こえた。私は足だけを止め、走って来た人物を待った。
「お前...歩くの速えんだよ...」
 息を整えながら言葉を投げてきたのは____倖也だった。確認が遅かったのは、振り向くのに時間を要したからだ。
「......」
 私は彼から視線を逸らし、また歩き始めた。
 義理とはいえ兄と登校などしたくない。もっとも、倖也とは同じ学校なのだが。
「あ、待てよ!」
 早足で私の隣を歩いてきた。
「一緒に行こうぜ」
 ___鬱陶しい。
 心底思った。

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