君と過ごした冬を、鮮明に憶えていた。
父さんが、思い切り睨んだから。
「俺に口答えする気か...?」
 ものすごい低い声で言い放つ。それが母さんに向けられる。
 そこで__
 -ピンポーン
 チャイムが鳴った。
 父さんはその音を聞くと、母さんには目もくれず、玄関に向かっていく。さっきまで、あんなに怒っていたのに__呪いをかけられたように、ふらふらと。
「雪江...」
 ただ一つの、母さん以外の女の名前を、繰り返しながら。やがて父さんは、重い音を響かせながら、扉を開ける。
「秀介!」
 父さんの名前だ。誰が呼んだかなんて、秒でわかった。ベルを鳴らした、雪江という女だ。
 ちらっと見えた、女のハニーブロンドの髪。『派手』がぴったりの女性だったと思う。
 私は、何故そのような女が父さんを好むのか、わからなかった。父さんは、別に、不細工というわけではない。けれど、派手な女性に好まれるような系統の顔でもない。
「行こうか」
 扉の向こうで、聞こえた声。
 私たちに向けるものとは全く違っていて。
 でも、気のせいだろうか。
 寂しさが入り混じったように、聞こえたのは。
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