お酒はハタチになってから
ポツポツと話しながら並んで歩いていると、すぐに自宅のアパートが見える。
いつもの場所で立ち止まってお礼を言おうとした。
けれど彼の顔を見たら、いつもの流れは消え去ってしまった。

「渚さん」

右手を握られ、思い詰めたような瞳と目が合う。

「なあに」

酔った頭でただならぬ雰囲気を感じ取るが、もう遅いこともわかった。
彼はどんな言い訳をしても、この話をやめる気はないだろう。

私は、自分のつま先を見た。
履き慣れた黒いパンプスが目に映る。

耳には、彼が私を呼ぶ声がまだ残っている。

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