怨返し─赦されない私の罪─

そう言って享吾は右手に持っていた物をチラつかせた。それを見て裕子はギョッとする。

依奈を探している理由、享吾がいつも以上に冷徹な顔をしている理由が全てその持っているものが物語っていた。

享吾が手にしていたのは金槌だった。小さく小柄だが、重量感を隠しきれない金槌に裕子は圧倒される。


享吾君....来希君と清都君が殺されたのは千澤さんのせいだと思ってる。
復讐....そして自分が殺される前に....決着をつけようとしてる!


裕子は自殺してしまった友達のことを思い出す。自分に言い聞かせ、裕子は覚悟を決めた。享吾はここで食い止めると。


「きょ、享吾君...千澤さんをどうするつもりなの....?」


その問いに享吾は答えず、ゆっくりと歩を進めてきていた。その不気味さに裕子は戸惑うが、足を踏ん張って後ろへ下がるのを耐えた。


「来希君と清都君が殺されちゃったのは千澤さんのせいじゃないんです。千澤さんは何もしてない....むしろ助けようとしたんです!」


享吾は黙りながら足を止めるのをやめない


「信じられないかもしれないですけど、全部は章太君の仕業なんです。千澤さんは命をかけて、章太君の暴走を止めようとしてるんです。だから、千澤さんに復讐なんて考えないで下さい。」


それでも享吾は止まらない。裕子は歯を食いしばり、両手を広げて立ち塞がった。
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