怨返し─赦されない私の罪─

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「ただいま...」


重々しいドアを開けてそう言っても、物音一つも起きない。家の中で光があるのは玄関だけだと依奈のクラスの担任、重信は察した。

重信は小さく舌打ちをし、靴を脱ぐとすぐにキッチンの方へと向かっていった。
いつも家族と食べる食卓、今日は一段と寂しく思える。重信は冷蔵庫を開け、中から缶ビールを一本手に取った。

スーツを隣の椅子にかけ、ネクタイをだらしなく取ると倒れ込むように椅子に座る。
ビールの蓋を開け、音を楽しむ暇もなくすぐに口に流し込む。

重信は疲れ切っていた。章太のいじめ問題を酷く指摘され、警察やPTAの対応。自分の生徒に弱みを握られ、虚しさと怒りを抑えながら一日を過ごした。


ふっ...家族にほぼ見捨てられたのに今度は社会からも追放されそうなんて....俺の人生ってなんだったのだろうか?...まさか自分の教え子が死んでしまうなんて....


「...でも仕方ないじゃないか....俺だって少なくとも家庭がある...
助けられるわけないんだよ....」


そう自問自答をして、ビールをグビグビ飲んでいると、誰もいるはずのないリビングから何かが落ちる音がした。


「あ?もしかして誰か起きてんのか?」


重信は缶ビール片手に飲みながら、リビングまで足を運んだ。
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