breath
それを見た樹さんは

「また一緒に住みたいな……」

小さな切ない声で呟く

でも、私はその言葉を耳にしていたけど何も言えなかった

私の中に二人の私がいて、正反対の事を言っている

一人は樹さんの事を過去のように受け止めろって言うけど、もう一人はそれを拒む

私はそんな樹さんを、歯がゆく見守るしかできない


樹さんと夕食のハンバーグを食べる

我が家のダイニングテーブルは、加藤家の備え付けの物なので4人掛けだ

二人で座るとすごく広く感じる

でも……誰かと食べる……昔、好きだった人と二人っきりで食べる夕食が美味しく感じてしまうのは、私が枯れていて寂しい女だからだろうか?

「俺、外国にいた時とずっと、このハンバーグが食べたいと思ってたんだ。不思議な事に母親の料理じゃなくて明日美の料理だけが頭に浮かんでた」

ニコニコ、嬉しそうに話す樹さんの顔を見ていると心が痛くなったと同時に、目に涙が浮かんでくる

この涙は……嬉し涙?
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