breath
22
樹が店の前に立っていた
視線が合う
私を睨んでいる
何も告げずに逃げた私にたぶん怒っている?
何でここを知っているの?
お父さんは口が堅いから言わないだろうし、お母さんには知らせていない
山下さん?
昨晩確認したときは言わないって言っていたけど
樹が店に入ってきた
身体が固まってしまい、普段通りの『いらっしゃいませ』が言えない
動揺しすぎ
しっかりしないと
懐かしいのか?目に焼き付けたいのか?
私の目はジッと樹の姿を映している
いつもの爽やかな笑みを浮かべる樹
私が逃げる前と何も変わらない
「明日美の婚約者の高宮です。いつも彼女がお世話になっています」
「明日美さん!こんなイケメンな婚約者がいたなんて。教えてくれたら良いのに」
「仕事が終わってから、少し話はできないか?」
「明日美ちゃん、今日は暇だから上がって良いわ」
なんて言ってくれるけど、樹と何を話して良いかわからない
樹は、私を連れ戻そうとしている?
清子さんのかけたくれた言葉にも無反応な私
勘の良い清子さんだから、訳ありだと思われたようで
「応接室でお待ちいただけますか。さあ、こちらです」で私の前から樹を連れ出してくれた
目の前から樹が消えると心拍数が下がる
樹に睨まれた時間が息苦しく思えた
どうしよう
新幹線でここまで来てくれたのだから少しの時間でも会わないといけない?
会いたくない
しばらくして樹をこの場から連れ出した清子さんが戻って来て
「あのイケメンの彼ね社長に応対してもらっているから」
「伯父さんに?」
「言われてたの。明日美ちゃんあてに誰かが訪ねてきたら呼んで欲しいって」
伯父さんは、樹がここに来るのを知っていた?
じゃあ、ここにいるのをばらしたのはお父さん?
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