大事にされたいのは君
「久しぶりだね、吉岡さん」
放課後の誰も居なくなった教室で、貼り付けたような笑顔を私に向ける瀬良君が言った。
「…久しぶりだね」
その笑顔を前に、怖気付いている私が居る。たった一言がこんなにも出しづらい。喉がギュッと縮まって、簡単な言葉さえ絞り出すようで苦しい…いけない、しっかりしないと。
「あの…私、瀬良君に謝りたいんだ」
「…謝る?」
瀬谷君が怪訝そうに眉間をピクリとさせる。私が謝ると言う事態にピンと来ていないようだったけれど、とにかく言ってみろと視線だけは逸らさず私をジッと見つめてきた。そんな彼の様子に、間違えた瞬間そこで終わってしまうような切迫した緊張感が、私を更に縛り付けた。
「あ、あれからすごく考えたんだけど、どう考えてもあの時、私の言葉が君を傷つけたから。他人だなんて言って…君は私を大切に思ってくれてたのに」
「……」
「君にとっての特別だって自覚が無くて、一番好きな友達って言葉の意味も分からなくて、不安になって八つ当たりして、それで、君を傷つけて…本当に、ごめんなさい」
言葉を選んで、とにかく伝えたかった事、気づいた事を口にした。謝る言葉と共に視線が下がる。返って来る言葉を待つ時間が異様に長く感じられて、目に入ってもいないはずの彼の視線を痛い程に感じ取って、申し訳なさ、居たたまれなさが私の頭を上げさせない。
そんな私の頭上に降らすように、彼の声が無情な言葉を紡いだ。
「…別にいいよ。そんな事はもうどうでもいい」
『どうでもいい』
温度の無い声が、胸に刺さる。やっぱり、もう手遅れだったのだろうか。謝った所で何にもならないのだと突きつけられた気がして、足元がぐらついた。…でも、それでも私はここで挫けてはならない。許される事だけが目的では無いのだから。