大事にされたいのは君

君と友達になる



久し振りにも感じる笑顔で、柔らかな対応をしてくれた瀬良君。それは私の願いを聞いて友達になってくれたからこその彼の対応だった。もう絶対に無理だという覚悟もしていたから、笑顔の先にまた自分が居られるだけで嬉しかった。懐かしく感じる彼の態度は、私にとって喜ぶべきもの以外の何ものでもない…はず、だったのに。

何故だろう。手放しで喜べない違和感。もしかしたら、あの頃の彼とは違う彼を実感させられただけだったのかもしれない。こんな風に笑顔を向けられて、それなのに突き放されて…いや、そっと線を引かれて、こちらに踏み込む事も踏み込まれる事も望んでいないのだと、示されて。

…そうだった、元の関係に戻った訳では無いのだった。違うのだ。私達は、友達。ただの友達。他人になってしまった私が、友達にしてもらっただけなのだ。

…明日から、どうなるのだろう。

声を掛けてもらえるのだろうか。それとも、声を掛けたら応えてくれるという事なのだろうか。朝は一緒なのか。お昼はまた一緒に居てくれるのか。帰りの時間は貰えるのか。また、弱い心の内をみせてくれるのだろうか。

考えれば考える程、昔のような関係を求める方向に向かってしまう。なんて欲張りで我が儘なのだろう。最近は自分に嫌気がさす事ばかり。

「こんなでも、きっと受け入れてくれたんだろうな…」

過去を想い、独り言を呟いた所で虚しいだけだった。後悔なんてした所で何の意味も無いのに。仕方ないよ、自分で蒔いた種でしょう?なんて、きっと人の相談事だったとしたら言ってしまっていたかもしれない。感情の無い正論は人を傷付けるにはもってこいの言葉なのだと、今なら分かる。私はきっと知らずに人を傷付けてきて、それを自覚していないどころか、自分が正しいのだと信じて疑わなかった最低な人間だ。後悔しない選択なんて無い。いつか必ずやってくる後悔に打ち勝つ為の土台を作る事しか、私達には出来ない。

土台作りを怠った私にはもう、今から作り上げる新しいもので戦う他無い。友達から、私達は始まる。次は私から彼に近づく番。

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