大事にされたいのは君
「プリントありがとう、助かった」
私に向けて笑顔で告げられるそれが嬉しい。面と向かって丁寧に手渡しで渡されるその瞬間が特別な一時のようにも思えた…けれど、たった一瞬の出来事として終わってしまった事に、結局寂しさが募るだけだった。あんなに楽しみにしていようと、向こうにその気がないのならそれは特別なやりとりにはならない。
友達。友達って一体なんだろう。
彼をよく目で追うようになった。彼はよく忘れ物をするけれど、その時借りる分だけ他の人に貸す事も多いのだと知った。他のクラスの男子が来る事も多いけれど、女子がいる事もある。
「瀬良ー!ジャージ貸して!」
ジャージって何、ジャージって。そんなのサイズ合わないんだから女子に借りなよ、おかしいよ。…なんて、関係も無いのに心の中で思いっきり責める私に驚いた。だったら私がその子にジャージを貸せば良い話だけれど、そんな事もちろん出来る訳が無い。話した事も無い人だ。
「はぁ?女子に借りろよ」
「瀬良のサイズ感が良いんだもん。この前教科書貸したでしょ?」
渋る瀬良君の態度を見てもその子は負けずに食い下がる。なんとしても借りていく意思を感じる。
「あー…まぁ良いけどさ。俺その次体育だから終わったらすぐ返せよな」
そして、結局貸してしまう瀬良君にガッカリした。なんとなく、断るんじゃないかと期待していた自分がいたのだ。私と話す様になってからの瀬良君はあまり女子との関わりを持とうとしていないように見えた。教科書ぐらいは貸すだろうけれど、流石にジャージは断るだろうと。だってその子は瀬良君の名前の入ったそれを皆の前で着る事になる。まるでその子が特別のような勘違いを…あぁ、ダメだ、まただ。また私は瀬良君の傍にいられないからってこんな事を考えて。そんなの瀬良君だって分かっているはず。そんな事を私が気にするのはおかしな事なのに、そんな事ばかり気にして、苛立って、落ち込んで。