大事にされたいのは君
「相談にはちゃんと乗るけど、だからって他人に合わせて自分を変えたりはしたくないよ。それで本当の私が分からなくなったら、傷ついた自分、間違えた自分の答え合わせはどこですればいいの?信じられる自分じゃなくなる方が、周りに人が居ない事よりも私は寂しくて、だから私は変われない……あ、そっか」
声に出してみたからか。急に全部繋がって、何か分かった気がした。
今まで私は拒絶されるのが怖いから踏み出せないで居た。それって向こうの態度に傷つくのが怖いというより、本当の自分を否定されるのが怖いって事だったんだ。自分を変えてまでして他の人に好かれたいと思わない自分が居るのに、他の人に好かれる事を望んで、自分を変えられる彼を羨む自分も居る。好かれる為に自分を変えるつもりが無いのに、誰かに一番大事にされたがってるなんて、そんなのって…
「…わがままで欲張りなのは、私も一緒だ…」
唖然として呟いた言葉。私も一緒、瀬良君と一緒だった。理想ばかりで現実が見えてない、なんて私がよく言えたものだ。変えようともがいてるだけ彼の方が何倍もマシだ。
謝ったほうが良いのだろうか…と、彼の顔色をチラリと見ると、目が合った彼はニコリと笑った。そして「知ってるよ」なんて言って…へ?知ってる?
「見てれば分かんよ。吉岡さんは頑なに自分から周りを受け付けないのに、そのくせ一人で寂しそうにしてるから」
そう言った彼の笑顔はもう、ニコリでは無かった。バレバレだよとでも言うように、意地悪そうにニヤリとしていた。
「わ、私が受け付けないんじゃなくて、みんなが寄って来ないんだよ。私は君と違って近寄り難いタイプの人間なんだよ」
不貞腐れて私が言うと、瀬良君は仕方がないなぁとでも言うようにまた笑顔の種類を変えた。まるで幼い子供に対するような穏やかな視線で私を見ている彼は、なんだか私が思っているより私の事を知っているような感じがして、今も吉岡さんはそういう所あるよね、なんて視線で言われているような…でもこの人とはつい最近挨拶を交わすようになったばかりなのに、なんで?違和感…というかもう単純に不思議としか思えない。
「何も不思議じゃないって。俺が吉岡さんの事をずっと見てたってだけだから」
「え?なん…って、私今声に出てた?」
「出て無い。でも分かんの」
「…なんで?」
「だからー、ずっと見てたんだってば吉岡さんを!」