大事にされたいのは君
そんな俺がって、つまり皆に求められて引く手数多な俺が君の為にここに居て嬉しいかって、私に聞いているって事…?
強い視線と、彼らしからぬ自分が好かれている事への自信みたいなものを感じさせる言い回しに、是が非でも嬉しいと言って欲しい、そんな彼の気持ちが流れ込んで来る。
「…う、れしい、よ…」
それはもちろん、嬉しかった。彼の雰囲気にのまれるように口をついた言葉だったとしても、その気持ちに嘘は無い。いつも一人の時には気づいてくれて、好かれている皆より私が良いと言ってくれて、私の言葉一つ一つをきちんと受け取って答えてくれる。そんな彼の特別な人間になりたい人の気持ちはよく分かった。分かったから、こそ。
「…でも嬉しくない」
「へ?」
「嬉しくない」
きっぱりともう一度告げると、目をパチパチとさせながら瀬良君は、「どういう事?」と、理解出来ないまま口だけ動かしたかのように私に尋ねた。
だってそれって、それってつまり、
「君の事を大事にするって、君を独占する事じゃない」
そう。そんなの私の独り善がりになってしまう。どんどん君の良い所を知る度、周りの友達と自分が同じ存在になっていく気がして怖かった。私は彼の求めるものを埋めてあげる存在にならなければならない。彼に求めるばかりではいけないし、彼の友人との時間も大切にしてあげなければならない。だって彼は友人で埋められないものを埋めようとしているだけなのに、それで友人が無くなってしまったら彼の心の穴は私では埋められない程大きなものになってしまう。
「君には、皆の君でいる時間も必要だよ」
「…つまり吉岡さんは、俺を大事にする為に俺がここに居るのが嫌って事?」
まるで言葉を確認するように呟く瀬良君にそうだよ、と私は言葉を乗せた。