大事にされたいのは君

確かに私は始めと比べて、だいぶ瀬良君に好意を抱いている。しかし私は彼と恋愛をしたい訳では無い。している訳でも無い。でも彼じゃないとダメだと感じるものは確かにあって、例えばそれは、初めて彼が見せた彼らしくない後ろ向きな弱い部分であったり、その反対に彼らしく私の事を受け入れて勝手に引っ張っていく強く優しい部分であったり、逆に寂しい彼には私が必要なのだという私自身のエゴであったり…それらは全部、私が彼に決めた部分。他の誰でも無く、彼を大事に思う部分だった。

彼だから大事に思う。彼じゃなかったらこうはなっていない。それは私が彼に期待している、という事になるのだろうか。私が彼に求めるもの…すぐに挙がるのは先程彼に口にしたもの、彼には彼のままで居て欲しいという事。何故そう思うのかというと、私は元々の彼を尊敬しているし、彼には沢山の人に囲まれていて欲しいと思うし、彼が満たされていて欲しいと願うから。その為に私は彼の優しくて臆病な部分を守ってあげたいと思うし、私が彼の寂しさを埋めてあげたいと思う。だって彼は私を頼ってくれたのだ。皆に好かれもしない、兄の荷物でしかない、ここに居る価値の無い私なんかを。

…そうか。私の期待の答えはこれだ。

「私は彼に頼られて、それに応えられるのが嬉しい。期待しているとしたらそこ。必要としてくれる、私にしか出来ないと思わせてくれる所。私に理由をくれる所」

寂しい者同士寄り添っていこうなんてーーもしかしたら始めから瀬良君は分かっていたのかもしれない。私がこれを求めていたのだという事を。これ程までに私の求めるものを表した言葉は無い。それを求めていたのは彼じゃない、私だった。
始めから私の方だったのだ。

「だから、私じゃなくていいならそれでいい。彼が私以外で満たされるならそれでいい。彼が寂しくないならそれで良い。私は私じゃないといけない人が欲しくて、その為に力になれる私が欲しいだけで、彼が彼のまま幸せで居てくれればそれでいい」

…つまり、

「彼の力になれないなら私は彼の傍に居る必要はない。私が期待しているのは私の事を見てる今の彼。私が必要ない彼は私にも必要ない」
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