Vanilla
「私、お金払ってません!」

引っ張られながら必死に叫んだ。
だって万引きになっちゃう!

「もう払った」

「え?」

今の言葉に幻聴かと耳を疑っていると、

「ありがとうございましたー」

背中に店員さんの声が聞こえてきた。

その声に朝永さんの言葉が真実だとやっと気付いた。


「孫にも衣装だけど、少しはまともな姿になったから、隣歩けるわ」


朝永さんは私に振り向いて嫌味を言ったようだが、私には一切嫌味に聞こえない。

それどころか、目の前のショーウィンドウに映った朝永さんの姿が視界に入ると、朝永さんに意識を持っていかれてしまう。
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