Vanilla
「私を、探してた……?」

仕事が終わってから、走り回っていたの?

「当たり前だろ」

真っ直ぐ見つめる瞳と即座に肯定した言葉にまた鼓動の速さが増す。

「ど、して……?」

「ついて来い」

朝永さんは机に置いていた紙袋とこの部屋の伝票を勝手に掴むと個室を出る。
私の左手を掴んだまま、レジカウンターで伝票を二枚と一万円札をバンっ!と叩くように置いた。
レジに居た店員さんと私は一緒に肩を竦めた。
朝永さんは私達を気にすることなく勝手に精算すると店を出た。

朝永さんは私を引っ張りながらズンズン進み、居酒屋などが立ち並ぶ賑やかな大通りに出た。
金曜日の夜だから、仕事帰りのサラリーマンが溢れている道を駅の方へと向かって歩いていく。

朝永さんは家に私を連れて帰る気?

でもいつも私の勘違いだった。

朝永さんの口から、何も聞いていないから、まだ自惚れられない。

朝永さんがここに来た理由を聞きたい。
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