Vanilla
私は固まった。
だって扉を開けたら、何故か朝永さんが怖い顔をして立っていたから。

「な、何で此処に……」

信じられなくて呆然と呟く。

「ご主人様に嘘をつくなんて、良い度胸してやがる」

朝永さんの苛々したような細い目が私を竦めさせる。

逃げなきゃ。
でも何処に?

とりあえず扉を閉めようとした。


『ガンッ!』

朝永さんが閉まり切る前に隙間に足を差し込んできた。
そして手で扉を開ける。

「話を聞け」

ついに左手が朝永さんに捕まった。

鼓動をワンテンポ速めた時、気付いた。
朝永さんの手が汗ばんでいることに。

思わず朝永さんの顔を見た。

頬に汗が滲んでいる。

今は十一月、もう長袖の季節。
もしかして、
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