Vanilla
「水野」


人混みを掻き分けながら歩く朝永さんに引き摺られていたら、朝永さんが突然止まって背中にぶつかりそうになり、焦った。

朝永さんが呼んだ名前に更に焦った。


「あら、やっぱり来てくれたの?朝永君」

穏やかな穂香さんの声が聞こえてきた。


此所が穂香さんと伊藤さんの婚約パーティーの会場だと確信した。


何故こんな所に私を連れて来たの……?

あの時とは違う名前の呼び方をする二人。
何がしたいの、二人とも。


「朝永君、来てくれたんだ。ありがとう」

理解出来ない二人に動けないでいると、伊藤さんの和やかな声が聞こえてきた。

伊藤さんまで目の前に居るのに、朝永さんも穂香さんも二人とも冷静そうな声だった。

私だけ?
ハラハラしているのは。

穂香さんと伊藤さんは朝永さんの背中のお陰で私に気付いていないようだ。
二人に声を掛けられていないから。

怖すぎて穂香さんの顔を確認出来ない。
私はバレたくなくて、朝永さんの背中のギリギリまで近付いた時、朝永さんがまさかの言葉を放った。
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