Vanilla
どうしちゃったの、朝永さん。
朝永さんが気になるけれど、一先ず電話に出よう。

「あ、もしもし、しー君」

『出ないかと思った。つぐみ、今出先?』

どうやら周りの喧騒が向こう側にも届いているようだ。

「あぁうん、そうなんだ」

『この前はお金助かった』

「大丈夫だよ。必要な物があったらすぐに言ってね」

『ありがと。じゃあ切るよ。また来週』

「ごめんね。また来週ね」

今回は特に用も無いし、目の前に朝永さんが居るのですぐに電話を切ったのだが、未だに朝永さんはしゃがんで左手で頭を抱えたまま。
それに何かをブツブツ言っている。
お嫁さんとか紛らわしい事言うなとか。
本当にどうしたのだろうか。

「朝永さん、大丈夫ですか?」

十秒様子を窺っていたが、そのまま動かないから心配で声をかけた。

「……盛大な勘違い」

小さな声だったがギリギリ拾えた。

「え?」

勘違い?何が?
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