Vanilla
「答えろ」

強い声と強い眼差し。
でもどこか焦燥感を感じる。
握られている手に力が籠められた時、大事なことを思い出す。

「朝永さん、ちょっと待って下さい!」

私は断りを入れると、肩から掛けているショルダーバッグから急いで携帯を取り出して電源を入れた。

今日が電話がある金曜日なのを、今しー君の名前を聞いて思い出したから。
電源をつけ、起動させた数秒後、携帯が震えた。
ナイスタイミングだ。
発信源は勿論しー君。

「あの朝永さん」

「何」

朝永さんはあからさまに不機嫌な声。
私が質問に返さないからだろう。

「しー君から電話なので出て良いですか?」

私の言葉を聞くと、朝永さんはピクリと眉尻を上げた。

「しー君は私の弟なんですが、携帯を持っていない寮住まいの高校生なので、私が出ないと心配してしまうので」

朝永さんは私の説明を聞き終えると、一瞬目を見開いた後、がくーっと項垂れながらしゃがみ込み、左手で頭を抱えると動かなくなった。
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