君を借りてもいいですか?
物凄い上の方から勢いよく水が落ち、その水しぶきがミストのようになって顔にかかる。

なんだか昨日の夜のあの言葉『また一緒に旅行に行こうか』をなかったことにしてくれてるような気持ちになる。

できることなら昨日のあれはなかったことにしてほしい。

だって私は偽の恋人。

ここにいるのも目的を達成するための言わば作戦会議のようなものだ。

それ以上でもそれ以下でもない。自分の置かれている立場を忘れるな!なのだ。

「こっちに来て」

湊人が私の腕を掴んだ。

「え?」

湊人はニコッと笑い私の手を強く握ると滝裏側へと誘導した。

「見れる時と見れない時とあるんだけど……今日は見れるかな〜」

独り言のようにつぶやく湊人の表情はなんだか少年のようにキラキラしていた。

そして足が止まったと同時に「あっ!栞あれ見てあれ!」

少し興奮気味に指差した先に目をやると滝の裏側に虹が見えた。

「虹だ。綺麗」

こんな至近距離で虹が見えるなんて思ってもいなかった。しかも滝の裏側。神秘という言葉が似合っていた。

「でしょ?小さい時に父親がここを教えてくれたんだ。ここに虹が見えるのは地元の人ぐらいしか知らないんだ」

「よかったの?私になんか教えて」

昨夜のことではないがこういう女子が喜ぶような場所こそ私ではなく大好きな人に教えるべきでは?

でもここで気まずくなるのは嫌だから最大限に言葉を選んだ。

湊人はただ一言「いいんだ」というとそれ以上のことは何も語らなかった。
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