きみの左手薬指に 〜きみの夫になってあげます〜
そう思ったわたしは、彼とはすっぱりと別れた。
二人で撮った写真も、もらったプレゼントも、速攻でゴミの日に出して、今となってはラララ星の彼方だ。
けれども、「祖母の形見」はそうするわけにはいかなかった。
たった一人きりになってしまった家の中には、
其処此処に亡くなった祖母の「痕跡」があり「処分」なんて今でもできない。
台所に立てば、記憶の底から具だくさんのおみおつけの匂いが漂ってくる。
祖母が使っていた鏡台を見れば、正座をしてヘチマコロンを顔に叩く後ろ姿が目に浮かぶ。
今は、わたしの名前の由来にもなった桜の木があるだけになってしまった前栽には、かつては祖母が丹精込めた四季折々の花が咲いていたのに……
ふとした瞬間に、それらが目に入り心を過ぎる。
すると、気がつけば、はらはらはら…と、涙が頬を伝っていた。
……お葬式のときは無我夢中で、涙を流す「余裕」すらなかったことに、ようやく気づいた。