きみの左手薬指に 〜きみの夫になってあげます〜

とりあえず、と思って使ってもらっている二階の客間には、いつの間にかシンちゃんの衣類や本などの「私物」が増えていた。

掃除をするときに入ったら、仕事で使うのだろうか、デスクトップのパソコンとプリンターまで持ち込まれていた。

客間だけではない。

台所にある昔ながらの「水屋」には、買い物に行ったときに買ったシンちゃん専用のお茶碗やお箸が鎮座している。(ちなみに、なぜかそのときにわたし専用の色違いのものまで買った)

また、祖母の部屋にあるこれまた昔ながらの「洋服ダンス」を見て、
『これは桐のタンスだね。防虫には最適だ。それに、こんな手の込んだ職人さんの技が光る家具は、今となってはなかなか(つく)れないんだよ』
と言って、今ではシンちゃんのスーツの居場所になっている。

さらに、洗面台の棚の一角は、シンちゃんが愛用しているという電動歯ブラシやシェーバーなどの日用品が占めるようになった。


家の中での、シンちゃんの「痕跡」だ。

すでに、其処此処(そこここ)に「巣食って」「増殖」していた。

< 114 / 272 >

この作品をシェア

pagetop