きみの左手薬指に 〜きみの夫になってあげます〜

最近、駅から遠いこの界隈では、山田のおばちゃんの息子のように、ここで生まれ育った若い子たちが、便利な都心へどんどん出て行く。

隣近所気心の知れた下町情緒、といえば聞こえがいいが、子どもの頃はもちろん親の代から知られていれば、「……さんちの子はねぇ……だってよ」と言われ続け、確かに面倒で鬱陶しいとは思う。

実際、あたしだって、きっと「井筒さんちの櫻子ちゃん、三十過ぎたってのに、嫁入る気配ないやねぇ」と言われてるに違いない。

なので、おばちゃんのように、子どもが巣立ったあとで一緒に住んでいた伴侶に先立たれて、一人暮らしになった人が増えていた。

そんな隣近所では「若いヘンなヤツ」は嫌でも目立つ。

二十三区内であるにもかかわらず、急速に少子高齢化している「過疎区」の証である。

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