きみの左手薬指に 〜きみの夫になってあげます〜
それから、彼女はカウンターから出て、さほど広くない図書館(というより図書室)の書架の整理を始めた。
何冊もの本を持たねばならない司書の仕事は、案外力仕事のようだ。業務に邪魔にならないように、彼女は長い髪を束ねてポニーテールにして、きびきびと動いていた。
オフィス街のど真ん中にあるビルの一室にある区立図書館の分館なんて、来館者は時間潰しにやってくる営業マンらしき者ばかりだ。
ふと辺りを窺うと、周辺の男たちが彼女に見入っていた。たぶん、彼女が目当てでここに来ている輩たちに違いない。
でも、どうやらあの同僚の子が目を光らせて、彼女に邪な「害虫」を寄せつけないようにしているっぽいな。
ほら、今も「てめぇらごとき雑魚が声かけんじゃねえよ。わかってんだろな!?」っていう感じで、サラリーマンたちにガンを飛ばしまくってるじゃないか。
彼女がいつからこの分館で働いているのかは知らないが、営業一課にいた頃、いやせめて営業事業本部長の頃に出会いたかったな。
そしたら、「外回りに行ってきます」と会社を出れば、あとは融通をつけてここに来られたのに。
今の分刻みのスケジュールに会議漬けの毎日では、そう頻繁には来られない。