きみの左手薬指に 〜きみの夫になってあげます〜

「あ、そうだ!」

中村のおばちゃんが思い出して言う。

「また例の『変質者』が出たらしいんだよぅ。
そいでもって、こうやって急いで回覧板にして回してんだけどさ」

「怪しい不審者」がいつの間にか「変質者」になっていた。確か、実害はまだなにも出てはいないはずなんだけど。

「あたしら一人暮らしの女にとっちゃぁ、たとえ戸締まりしてたって怖いやねぇ」

山田のおばちゃんが身悶えして震えている。


「……そうですよね」

葛城さんが神妙な顔をして相槌を打つ。

「僕も一人暮らしの櫻子さんが心配だな。
……そうだ」

一転して、突然、晴れやかな顔になった。

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