きみの左手薬指に 〜きみの夫になってあげます〜
山田のおばちゃんも、中村のおばちゃんも、普段は糸のように細い目を、これでもかっ!というほど、見開いていた。
「さ、さ、櫻子ちゃん、いつの間にっ!?」
……こっちが聞きたいくらいですっ!
「か、葛城さんっ!?」
びっくりしたわたしは、思わず彼のスーツの腕を掴んで揺すっていた。
「なに?どうせ、そのうちわかることなんだし、いいだろ?」
葛城さんは悪びれずに言った。
「なんだよぅ、水臭いやねぇ。隠しとく気だったっつうのかい?あたしらは櫻子ちゃんがおばあちゃんに引き取られた頃から知ってんだかんね?」
山田のおばちゃんからぱんっ、と腕を叩かれる。
「そうだよぉ、照れなくってもいんだよ、櫻子ちゃん。おめでたいこっなんだからさ。
よかったねぇ、おめでとう」
中村のおばちゃんからも回覧板でぽんっ、と叩かれた。
……あぁ、明日にはご近所中に広まってるだろうなぁ。
この二人がこの界隈の「広報担当」なのだ。