きみの左手薬指に 〜きみの夫になってあげます〜
「『ストーカー』を甘く見ちゃいけないよ。
最近のニュースでも、ストーカー被害でたいへんな目に遭った女性のことを報道してるだろ?
ストーカー規制法ができたといっても、警察はなにか具体的なことが起こってからでないと動いてはくれないんだ。櫻子さんに取り返しのつかない危害が加えられてから対策を取ったって、もう遅いんだよ?」
真剣な眼差しで、じーっと見つめられる。
「それに、きみはもうすぐ職を失うんだろ?
先刻の洋食屋では、急いで次の職を探すつもりだと聞いたけれど、僕にはきみがそもそも公務員のような環境を望む安定志向の人に思えるんだけどな……だったら、今度は末永く勤められるところを、焦らずに探した方がいいと思わないか?」
もっともな「意見」に、わたしはまた固まってしまう。
「そうだな……ここをシェアハウスだと思えばいいんじゃないかな?僕がここに住むことによって、きみは『家賃収入』が得られるんだ。
外では僕はきみの『結婚相手』だけど、うちの中では『シェアハウスの店子』だと思えばいいよ」
やっぱり、葛城さんは「優秀な営業マン」だ。
「本当はしばらくの間、この家を離れた方がいいくらいなんだけど。
……でも、きみは、このおばあちゃんの家を離れたくはないだろう?」
言いくるめられて、なにも言い返せない。
そして、途方もなく高額な商品は売りつけられることはない代わりに……