突然婚⁉︎ 〜きみの夫になってあげます〜
「……ふざけるな。夫として、櫻子を毎日通勤に往復六時間もかかるところへ行かせられるわけがないだろ?」
そして、原さんを、頭上高くから眼光鋭く見下ろした。
普段のやさしくて温かみのある「王子さま」ぶりからは想像もできない、まるで「皇帝」ような冷徹な威圧感だった。
原さんがますます震え上がるのが見てとれた。
ちなみに、シンちゃんと原さんとでは十センチは確実に背が違うと思う。もちろん、シンちゃんの方が背が高い。
「櫻子にはなにも、あくせく働いてもらわなくたって、じゅうぶん僕の給料で養っていけるからね」
シンちゃんはカードホルダーに収まった社員証をこれ見よがしにぴらぴらした。
なんたって、東証一部上場の大企業なのだ。
原さんのお給料や待遇とは、かけ離れたものだろう。
原さんはしばらく唇を噛み締めていたが、
「井筒さん……退職届をセンターの本部まで提出してください。郵送でも構いませんので」
つぶやくようにそう告げて、そそくさと足早に分館から出て行った。