王子様とブーランジェール



守りたいものがあるなら、強くなればいいし。

傷つけたくないなら、負けなければいいだけの話なんじゃないのか。






…あー。

どうして、今ここでそれを思い出すかな。

昔、とある人に言われた言葉だ。

今はそれどころではないんだけど。




急斜面の地面、土の上で足を滑らせながら、降りていく。

冬に理人と滑りに行った、モーグルのコースより傾斜がある。

俺でもバランス崩すと滑り落ちそうになり、途中、笹藪や、木の枝に掴まりながら降りている状況。

運動神経のない桃李は、転げ落ちるしかないな。

途中、止まっては懐中電灯で辺りを照らし、周りを確認する。

桃李の姿はないか、手がかりになるものはないか、探す。



結構な距離降りてきたんだけど、姿どころか、形すらない。

落ちたと思われる形跡を辿って降りてきたつもりだけど、ここまで降りてきたら、もう何だかわからなくなってきた。

これは恐らく。

麓まで落ちきったか。

しかし、麓には川がある。

まさか、川の中に落ちちゃいないだろうな。

もし、そうなれば、見つけるのは難しいどころか、命の危険だって…。




「…桃李!」



名前を呼び掛けて、辺りを照らしながら確認する。



「桃李!…桃李、いないのか!」



何度も叫んでみるが…気配は感じられない。

もうちょっと、降ってみるか。



あれから、どのくらいの時間が経っただろうか。

ったく、どこにいるんだアイツは。



(…くっそ…)



最悪の事態が頭を過らないワケじゃない。

時間が経つに連れて、そりゃ不安も増してくる。

ちょっと焦ったりなんかもして。



だけど、生憎。

俺は諦めが悪い。



(…ホンっトに…)



何でこんなことになってるんだか。

足を滑らせて絶壁から滑落なんて。

命がいくつあっても足りないだろうが。

このままじゃ、ホントにいつか死ぬぞ。



だから、俺が守ってやるんだよ。



もしあの時、俺が傍にいれば、絶対こんなことにはなってない。



それは、自信持って言える。

根拠はないけど。




その姿を見つけるまでは、絶対に、諦めない。



< 106 / 948 >

この作品をシェア

pagetop