王子様とブーランジェール



「あっ…あの、あのその…」



桃李、まだ挙動不審にもじもじしているぞ。

言葉に出そうと思っても、飲み込んでうつむいたり。

ソワソワしていたり、顔を上げたと思ったら、またうつむいてみたり。



桃李の挙動不審な様子を、ポカーンと見ている松嶋と柳川。

挙動不審の扱いに困っている。

…ワケでもなかった。



松嶋はしばらく、桃李をじっと見ている。

口の中のアメを転がしながら。



「…桃李?」

「…あ、あ、はい!」

「大丈夫だ」

「え、え、え…」



見つめたまま、桃李に頷きかける。



「…うん」



そして、桃李も頷き返していた。




…え。何なのこれ。

何で頷き合ってんの?



心中、ちょっとザワッとしてしまった。




「あ、あのね、部活…学校祭の練習があるって言ったら、来るのは五時半でいいって言われたの…」




先生に聞いたのか。

学校祭の練習があるって、糸田先生に…言えたのか?

桃李が?




「みんなより練習の時間少なくなっちゃうけど…家でも練習頑張るから…」




家で練習!

家で、練習すんの?

マジで?

桃李が家で何かを練習って…こんなに何かを頑張るって、今までにあっただろうか。





「…や、や、やってもいいですかダンス…」




語尾、小さくなって何を言ってるか聞こえない。

しかし、何が言いたいのかは、わかったようだ。




松嶋は、ニッと笑った。



「オーケーベイビー」



そして、ピースをする。



「あ、ありがとうございます…」

「もちろんでしょ。何深刻になってるかと思ったら…そんな改まって言うことじゃない!」

そう言って、柳川は桃李の頭を両手でぐちゃぐちゃと撫でていた。

「可愛い可愛い!なんでそんなに可愛いのさ!桃李、チワワみたいでしょ!目がうるうるして!」

「ゆ、ゆうみちゃん、痛い…」

「もぉー!一緒に頑張ろ頑張ろ!」




これは、驚いた。

桃李が何かを頑張る?

パン以外のことで、頑張る?

自分で『頑張る』って、口にする?

パン以外のことで?

ホント、今までにそんなこと、あっただろうか…。

学校行事とか、特に…。




いつも、ビビりでダメで。ドジで。

挙動不審で。

ヘタレ腰の桃李が?(ヘタレ女と先生に言われるのも、納得していたが…)




…うまくは言えないけど。

桃李の中の何かが、少しずつ変わっていっている…ような気がする。




そんなことにザワザワしていて。

違和感を感じずにはいられなかった。



な、何で…?





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