王子様とブーランジェール




「…ふんっ。バカめ。獲物を無くしたら、私はタダの女子だ。そこらの男子には素手でも負けない自信はあるが…」


ゆっくりと歩いて、飛んでいって自分のバットを拾い上げる。


「…たぶん、おまえには勝てない」


…あっさりと敗けを認めやがった。


バットを拾い上げたエリは、今一度、俺を睨みつける。


「ちっ…今日のところはこれで勘弁してやる。この借りはいつか必ず返すぞ!この無駄にイケメン2号!」


そして、俺に背を向けて、立ち去る。



「…あと!神田にはタダ話を聞くだけで手は出さん!バカめ!」



そう言って、ヤンキーギャル・狭山エリは、教室を後にし、風のように去っていった。



バカめ!って…。




「ああぁぁー…もぉー…」


理人の気の抜けた声がした。

傍にあった椅子にもたれ掛かっている。

緊張解けたな。


「何なんだよあの女…極道かって」

「何も考えなしに首突っ込むからだって。ホントにおまえは…」

ヘタりこんで座っている友人に、手を貸す。

「いやーマジ、夏輝がいて助かったわ。キックボクサー」

俺の手を取り、引っ張って立ち上がった。

不純な動機で始めたキックボクシングが、まさかこんなところで役に立つとは。




「お、おまえら大丈夫なのかよ!」

「っつーか、夏輝、おまえの強さ何なの?!」

「女子たちの目、見てみろよ!全員ハートだぞ!」




ギャラリーと化していた咲哉たちが、一気に駆け寄ってきた。

中には女子もいる。

っつーか、こんな状況、ハートよりも恐怖だろうが。

どさくさ紛れに何を言ってる。




「あぁ…あのバット、ヤバかった…夏輝が退がれって声かけてくれなかったら、ヤバかった…」




理人の顔はひきつっている。

あの勢いのバット攻撃を一番間近で見ていたからな。



「な、夏輝…」

陣太だ。神妙な顔で俺のところにやってくる。

「どした?」

「あいつら…三年の狭山たちだろ?かなりヤバい連中だって先輩たちが言ってたぞ」

「先輩…野球部の?」

陣太が頷く。

「あいつら、先代のミスターのファンクラブ連中で、やることなすことヤクザにも負けないぐらいの暴れっぷりならしいぜ?…神田、何で連れていかれたんだろうな」

そ、そうだ。

そういえば、桃李、連れていかれたんだった。

『神田にはタダ話を聞くだけで手は出さん!』

だから、大丈夫かなと思ってはいたのだが。



しかし、先代のミスターのファンクラブ?



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