王子様とブーランジェール
今のは、いったい何だったんだ。
耳は確かか?
まさかの新事実だ。
『私、変わりたい…』
桃李が、変わりたいって…?
なぜだ。なぜなんだ。
そんなことを考えるヤツだったか?
学校では常に挙動不審ダメドジ女で、隅でひっそりと生きていて。
でも、パン作りには熱心で、好きなことへの集中力は半端なくて、結局は好き放題で幸せそうに生きている。
そんな桃李が…変わりたい?
『ち、ちゃんとこう、い、言いたいことはっきり言えるようになりたい…』
まさか…。
『だ、ダメでドジなのをやめたい…き、挙動不審もやめたい…』
…まさか、そんなことを考えていたなんて。
『恐がりもやめたいっ…強くなりたい…』
気付かなかった…。
『だ、だから、もう、逃げないっ…』
『頑張りたい…頑張りたいんですっ!』
…頑張るって、何なんだよ。
何を頑張るんだ?
何で、頑張るんだ?
自分自身のあり方や、この先のことなんて、何も考えていないと思っていた。
不器用なりに、ただ毎日を生きるだけで精一杯だと思っていた。
なぜ、そう思ったんだ?
そう思わせる…何かがあったのか。
全然、予想だにしなかった新事実に、ただ驚きで仕方がない。
想像の範疇を超えていた。
『変わりたい』
生きているなら、必ずしも誰もが一度は思うことだろうけど。
あの桃李が、このタイミングで、なぜそう思ったのか。
ただ、ただ驚きだ。
桃李、気付いたんだな。
ダメドジ挙動不審のままじゃダメだってこと。
ちゃんと考えていたんだな。
あんなヤツでも…。
それがいいのか、良くないのかは…どっちかと言われたら。
実は…ちょっと複雑な感覚だ。
桃李がダメドジ挙動不審じゃなくなる。
…想像つかない。全く想像がつかない!
これは、いったいどうなるのやら。
楽しみなのか、嫌なのか。
これも、ちょっと複雑な感覚で。
どっちかと言われたら。
い、いや。無理だろ。
そう簡単に変わるなんてよ?
ずっとあんな感じで今まで生きてきてんだぞ?
滞りなく日常生活を送る桃李なんて、桃李じゃないぞ?
違う別の生き物になるぞ?
神田桃李じゃないぞ?
無理。無理無理。
絶対、無理。
結論はさっさと出てしまった。