王子様とブーランジェール
…だけど。
『頑張ってるのにさ、何で応援してやらないの?』
また、松嶋のセリフがリプレイされた。
家に帰って、速攻で風呂に入ってメシを食べて、リビングのソファーでくつろぎながらも、考えてしまう。
先ほどのことを。
ちっ…現実問題っていうのがあるだろ。
実現可能なモノであれば、応援してやるわ。ダンスも自分自身を変えることも。
だけどな?
桃李は、この地に転校してきてからの少なくとも5年間、ずっとああだったんだぞ?
大人になるどころか、何も変わっちゃいない。
そのライオン丸ヘアの天パも眼鏡も、行動パターンも。
続けることの難しさとはよく言うが、変わることの方が難しいこともある。
どう考えても、無理だろ。
それに…。
頭の中が煮詰まりかけて、ため息が出てしまう。
すると、我が家の飼い犬のチワワがトコトコとやってきて、腹の上にポスッと乗ってきた。
あ、そういえば、エサやってなかった。
抱っこして移動し、キッチンのパントリー戸棚から、紙袋に入ったドッグフードを取り出す。
犬用の食器にしているピンク色のボウルにエサを入れてやる。
降ろしてやるとすぐに、エサにがっついた。
犬はいいよな。
こんなこと、あまり考える必要がなくて。
エサにがっつく犬をボーッと見ていると、ポケットに入れていたケータイのバイブが鳴る。
ウィンドウを確認すると…あ、桃李だ。
今帰ってきたのか?
9時半だぞ?
キッチンにいる母親に一声かけて、部屋着のタンクトップとハーフパンツの格好そのままで、家を出ることにした。
玄関でサンダルを履いていると、犬がダッシュで俺の後を追ってくる。
…おまえは来んな!エサでも食ってろ!
慌ててゲージを閉めて、家を出た。
夜に桃李んちに行くの、久しぶりだな…。
徒歩5分はあっという間だ。
何を考える間もなく、到着する。
すでに閉店して真っ暗になった店の前に、桃李は立っていた。
外で立って待ってる…こういうところは律儀だ。
だが…俺同様、桃李も部屋着のままだ。
ピンクのパイル地の半袖のパーカーとショートパンツのセットアップのまま、暗い夜道の中、一人でいる。
…そんな格好のまま、女一人で立ってるんじゃねえよ。
夜道は危ないだろうが…!