王子様とブーランジェール



そして、持っていた黒表紙の日誌でバシッ!と揃った頭に2連発ブチこんだ。

「痛っ…坂下ちゃん、ひどくありませんか!この暴力マネ!」

「そうだそうだ!一発持ってるだなんて、糸田と一緒!」

叩かれた頭を押さえて、二人はブーブーと文句を言っている。

だが、優里マネも負けてなかった。



「目の前の練習に集中なさい…」



優里マネの目が、据わってる!

こりゃ相当怒ってるし、相当迫力満点。

さすがの俺も、少しビビった。



「練習…してこーいっっ!!」

「は、はいぃっ!!」



そう叫んで、今一度、黒表紙の日誌を大きく振り回す。

大河原さんたちは、迫力に圧され、ダッシュで逃げ、グランドに戻ってきた。

俺達の横を通り過ぎる瞬間、

「木元、おまえの彼女、恐すぎ!」

「慰謝料もらいますからね!」

と、文句を言って慌ててグランドに戻っていった。

木元さんは、口をひきつらせて笑うしかない。

優里マネの彼氏ってだけで、苦労してそうだな。



さて、そろそろ練習始まる時間だな。

そう思って、俺も集合場所に戻ろうとした。


その時だった。


「ちょっと、竜堂くん?」


その声を聞いて、思わず体がビクッと震えてしまった。

声の主は、先ほど日誌を振り回していた彼女だ。

振り返ると、腕を組んでこっちを見ている。


「は、はい…」

「話、あるんだけど、いい?」

「はい…」



瞬時に悟ってしまった。

まさか、これは。

俺も怒られる系では…!



「蜂谷くん、もう時間でしょ?先始めてて?私、ちょっと竜堂くんに話があるから」

「お、そうだ。わかった。先やってるわ」

そう言って、蜂谷さんは俺を見て「あははっ」と笑う。

…って、楽しんでますよね?!

木元さんと一緒に俺達のもとを離れて行ってしまった。

あぁ…。



優里マネと二人きり。

何を言われるんだろうか。



「竜堂くん、ちょっと」



優里マネが手招きをする。

先ほどの二人を怒っていた表情ほど、恐ろしい雰囲気もない。

穏やかでもないが。


「…はい」



幾ばくかの緊張を感じながら、赴いた。


「優里マネ」

「何?」

「お騒がせして、すみませんでした」


もう、ここは先に謝ってしまおう。

だいぶ騒ぎになってるのは事実だ。

あの女豹が言いふらしているかもしれないおかげで…。


優里マネは、ため息をついている。


「竜堂くん、お酒はマズイわよ。リーグが一区切りついた時期とはいえ、私達未成年なんだから」

「はい…」

「表沙汰になったら、大会出れなくなっちゃう。今後は気をつけて」


< 25 / 948 >

この作品をシェア

pagetop