王子様とブーランジェール
鼻息を荒くして、ムキになっている俺は、木元さんに「まあまあ」と、宥められる。
「まあまあ竜堂。おまえを騙して女豹に喰わせた連中は、俺の彼女が今、成敗してるから」
そう言って「ほらほら」と指をさす。
指をさした方向は、わずか数メートル向こうのグランドの外。
そこには、俺を騙くらかした先輩二人が並んで立っている。
その前に立ちはだかるのは、ポニーテールにジャージ姿の小柄な女子だ。
「…はっ?優里マネ?」
「嵐とおまえの話を聞いて、優里沙は大層お怒りですよ…」
優里マネは、サッカー部のチーフマネージャー。
そして、ここにいる木元さんの彼女だ。
話の聞こえるところまで、木元さんと一緒にちょっと近づいてみる。
少し離れたところで、キャプテンの蜂谷さんがその光景を見守っていた。
「…お、竜堂お疲れ。嵐にイケメン狩りされたってか。お可哀想に」
蜂谷さんはそう言って大爆笑している。
キャプテンにまで…!
「は、蜂谷さん!あの話は!」
「わかってるわかってる。色仕掛けと潰し酒は嵐の鉄板だから。大体の連中はわかってるよ。心配すんな?坂下もわかってるからああやって…」
と、言って、騙くらかした先輩方を指差して笑っている。
他人が怒られているのを楽しんでいるようだ。
鬼だよ。
すると、優里マネの張り上げた声が聞こえてきた。
「だいたい、何で嵐の言いなりになってんのよ!魂売ってんじゃないわよ!」
「い、いや、嵐が女紹介してくれるって言ってたから…」
「女ぁっ?!あんた達、春季リーグ全勝したからって、気が抜けてるんじゃないの?!まだまだ大会は続くのよ!女にうつつ抜かして、たるんでる証拠じゃない!そんなんじゃ勝てないわよ!」
すごい迫力のお説教だ。
「こわっ!坂下ちゃん本気だな!」
「ふざけるのもいい加減にしなさいよ?しかも、うちの若手のホープを嵐に献上するだなんて!嵐に犯されたショックでダメになったら、どうしてくれるのよ!」
「それは心配なく、坂下ちゃん?あやつはベッドの上ではイケイケのノリノリだったらしいでー?そんなヤツがショックでダメになるなんてさー!」
「竜堂だってメイキンラブ楽しんでたんだぜー?それを犯されただなんてさー!」
なっ!そんな話まで!
あの女豹が言いふらしてんのか?!
ふざけんなよ…!
小さく反論し、調子づいちゃっている二人。
しかし、優里マネの眉間にググッと皺がよった。
「そんな話、聞きたいワケじゃないのよ私は…!」