王子様とブーランジェール




ギリギリまで引き付けて、すれすれのところで降り落ちてくる金属バットを、勢いつけて左方向へと体を動かして回避。

またしても金属バットはパァーン!とフェンスを揺らす。

「いつまでも逃げ回ってたって、勝負はつかぬぞ竜堂!…ん?」

回避の後、すかさず狭山の背後に回り込む。

俺の姿が見えなくなり、一瞬戸惑う狭山。

しかし、その隙を逃さない。

狙うは、狭山の両方の手首。

背後から、一気に掴みかかる。

「…なっ!おまえ!」

後ろを取られたことに気付いた狭山。

振り返ろうとするが、金属バットを持つ手首すらホールドされており、もう遅い。

その掴んだ両手首を、一気に目の前のフェンスに押し付けた。

逃がさないように、両手首ごとフェンスに指をかける。




バック壁ドン状態。

胸キュン動画コンテストでも、やったな。これ。




「…竜堂!…何をしておる!離せ!離せ!」



バック壁ドン状態にしては、大きくバンザイしちゃっている狭山。

逃れようと必死に体を動かしているが、体幹もフェンスに押し付けて、身動き取れない状態にしてやった。

「…あぁっ!」

体を密着させた途端、変な悲鳴をあげたぞ。

やっぱりコイツ、男慣れしてないな?



「…やめろ!やめろ!…離れろバカめ!」

狭山が慌て始めた。

予想としていた弱点は本物だったと改めて実感する。

マジか。



だけど、狭山を撃退するためだ。

弱点は大いに利用させてもらおうではないか。




「…狭山センパイ?」



そっと呟いて、顔を近付けてみる。

すると、狭山の慌てぶりは一層のものとなった。



「…あぁぁっ!…顔!顔近い!…近付けるなあぁぁっ!」



すげえ真っ赤になってる。

信じられない。

ちょっと。可愛いんですけど。




だが、やめてと言われてやめるワケにはいかない。

この猛者は、いっぺん倒しておかないといけないからな。




今一度、更に顔を近付けてその名を呟く。



「…狭山センパイ?」

「近い近い近い近い!…近いと言っておるだろうがあぁぁっ!」



そして、目が合った隙を見て。

胸キュン動画コンテストでも披露してしまった、あの偽りのスマイルを作って見せる。



「ああぁぁ…」



そして、耳元に顔を近付けて、囁いた。




「………」

「…うあぁっ!」


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