王子様とブーランジェール
その悲鳴を最後に、狭山の体がズシッと重くなった。
全身の体の力が抜けていっているのか、顔がうなだれてフェンスにもたれかかっている。
すかさず、右手から金属バットを取り上げ、そこらへんに放り投げた。
狭山から離れると、ずるずるとしゃがみこんでいく。
「ずるい…」
そして、パタッとフェンスにもたれかかった。
これは…やったぞ。
めんどくせー狂犬、狭山を戦闘不能にした…!
やった…勝利!
…と、手放しで喜ぶには、何とも複雑な心境だ。
っていうか、嘘だってわかってんだろ?
何で、術中にハマる?!
しかも、何で俺なの!
すると、後ろでゲラゲラと笑う声が聞こえる。
振り返ると、潤さんと奈緒美が後ろで笑い転げていた。
狭山を指差しながら。
本当にゴロゴロと転がっている。
「…マジ。マジ!…エリ、やられた!やられたよ!しかも、2回目!嘘でしょ?…うははは!」
「まさか、竜堂の色仕掛けで戦闘不能なんて!…これ、歴史に残る笑いなんですけど!うははは!」
「っていうか、今晩早速顧問に報告するわ!…エリ、色仕掛けで負けました!ってさー!あーおかしい!笑える!」
「やめときなー!顧問、ヤキモチやくかもよー!ウケるウケる!うはははー!」
「顧問がヤキモチ妬くわけないっしょ!涼しい顔して逆に夏輝に興味を持つに1000円だね!…あぁーっ!マジ笑える!」
友人の敗北、不幸にドッカンドッカンと笑い転げている。
あんたら、本当に友達?
すると、ケージの向こうで、静かな拍手の音が聞こえた。
「ナツキくん、お見事です」
狭山の取り巻き、菜月だ。
パソコンを脇に抱え、俺に向けて拍手をしている。
菜月も後ろの転げてる二人と同じクチ?
「エリが色仕掛けに弱いって、よくわかったね?ついでに言えば、ナツキくんにときめいちゃってることも」
「…それ、俺にコメントさせる?」
「うふふ。ついでに言えば、最後、何て囁いたのか知りたいな?」
「…それは秘密」
こうして、二人の猛者…ゴリラと小型犬を相手にした、ケンカは終了。
こんなオチで終わるんですか…。