王子様とブーランジェール

カオスな団扇のトラップ









「…おまえ、大丈夫なの?」

「全っ然、大丈夫じゃないです」





学校祭二日目の朝。

慌ただしくオープン準備に追われて賑やかになっている教室の中で。

俺は一人、教室の隅で椅子に座っている。

いや、正確には、陣太と咲哉が作り上げた見せ物小屋、胸キュンシアターという箱の横で。

昨夜の件で、みんなにも同情され、お手伝いは免除。

何もせず、ボーッとただ座っているためのだけ、仙道先生に話しかけられた。



「あ、そう…大変だったよな。昨日」

「………」



大変も何も。

大惨事だ。



昨日の前夜祭で。

とんでもない事態に見舞われた。



かつて、前夜祭の一大イベントだった『四天王デスマッチ』という催しが、昨夜、リバイバル。

しかし、狭山の悪巧みによって、その催しの参加選手に俺が選ばれてしまい。

全校生徒の前で、桃李にしつこく付きまとっていて、しょっちゅう俺とモメていたゴリラ…もとい、高瀬と公開ケンカをする羽目となった。

高瀬をボコボコにして、15分の死闘を制し、ついでに小型の狂犬にお灸を据えたのはいいのだが…。





痛い。

痛い。

身体中が…痛い。

蹴られて流血した額も。

クリティカルヒットを喰らった右の腹も。

散々ゴリラを殴った拳も。



もう、全てが痛い。



朝、起きるとそのダメージは一気に体を襲った。

いや、帰りにジムに寄ってオーナーのくどい説教を受けていたその最中から、徐々にダメージがじわじわときていたが。

そして、なぜか知らないが、昨晩やたらとピンクが俺の部屋の前で吠えまくっていた。

まるで、嫌がらせのように。

疲れて眠たいのに、うるさすぎて、寝れない。

部屋に入れて一緒に寝てやると、静かになった。

おかげで、疲れが取れてない。

今日、学校休もうかと思ったぐらい。

しかし、そんなことで学校休むとかどうなのか。

負傷した体を抱えて、とりあえず学校に来ましたとさ。




学校に来ると、周りの反応はさまざま。

殴られた箇所に腫れや変色はなく、目立った外傷は額のガーゼのみ。

それを見て「大丈夫?痛そう…」と、哀れむ人。

はたまた、昨日の公開ケンカを「すごかったぜ!」と、讃える人。

理人のように『はい、昨日はおつかれー』と、当たり障りない普通の反応の人。



高校って、いろんな人間がいますね。



< 319 / 948 >

この作品をシェア

pagetop