王子様とブーランジェール
メンタルクリニック、で何事かはだいたいわかってきた。
相馬は、まさか…。
『カウンセラーを交えて時間をかけて話を聞いてみたら、どうも担任の先生が関わっていることがわかったみたいだ』
『前村が…?』
『担任の先生に、服を脱ぐよう強制され…』
『…やめろ!』
その続きは、わかっている。
でも、聞きたくなくて、怒声で遮ってしまった。
同時に、桃李の顔も浮かんでしまい…。
酒屋の兄ちゃんは、首を傾げている。
『何でかな。これは事実だよ?相馬愛里だけじゃない。どうやら前村のクラスの女子は結構被害に合ってるみたいじゃないか。卒業生も含めて。前村はどうやらロリ趣味らしい。体の小さな女子ばかりを狙ってセクハラしてたみたいだ』
『………』
だから、桃李も…。
『ちなみに自分が不細工だからイケメンは大嫌い。小生意気で我が強いなら尚更。君みたいなね?』
『………』
『で、君のこの動画をSNSにアップしてみたら、予想以上の反響だったよ。みんな目が覚めたように、被害に合った生徒やその親が次々と声をあげて学校に抗議した。相馬もこれを見て、学校と教育委員会に話す気になったらしい』
『………』
『学校火だるま、大炎上!ザマーミロ。こんなハゲデブクソ教祖を見てみぬフリの野放しにするからさ?…あははははっ!』
この男は、悪魔だ。
先生達への恩を仇で返すとは。
…と、いうのは少し違うのは、わかっている。
悪いことをしたのも大人で、見てみぬフリをしたのも、大人。
むしろ、一刀両断、悪を成敗、といったところなのだ。
黙って話を聞いていたが、聞けば聞くほど逆に罪悪感が募るばかりだった。
まさか、俺のしたことでこんな騒ぎになるなんて。
SNSは炎上し、先生の顔と悪行は晒され…ということは、先生を信じて従っていたみんなも目が醒めて、事実に傷つき…。
親父やじいさんまで出て来て、関係ない商店街のおっさんおばさんまでも巻き込む始末…。
自分の意見を持って貫いたとしても。
自分の手において、始末に終えることが出来なかった。
自分の手で…いろいろなものを、守ることが出来なかった。
『…何?ビビってる?顔色悪いよ?』
胸が大きくドキッと脈打った。
胸の内が見透かされているようで。
『何もビビることはない。君は英雄だよ?悪に立ち向かっていき、世の中に悪の所業をぶちまけた』
『…ぶちまけたのは、あんただろ!』