王子様とブーランジェール
『まあそこ座んなよ。これ食べるでしょ?』
彼の手には、寿司の入った寿司桶が。
それをカウンターに置いて『どうぞどうぞ』と俺を招く。
『門さん、君に食わせてやるんだって張り切って作ってたよ?愛情こもってるから食べなよ?』
『………』
とりあえず、腹も減ったので言われるがまま席に着く。
部長が俺のために作ってくれたという寿司を頂いた。
『あら汁食べる?美味しいよ?』
『…はい』
…久々の誰かとのメシは、美味かった。
『…あの動画、撮ったのあんただろ』
寿司を食いながらも、胸のうちに溜めていたことを吐き出してみた。
だが、彼はあっさりと返答する。
『そうだよ?』
『………』
『漫画喫茶のパソコン使ってSNSにアップしたんだ。こんな風に』
自分のスマホを俺の前に差し出す。
受け取ってスクロールしてみると、そこには衝撃の投稿があった。
なっ…これ!
《星天小学校5年2組の教祖様!》
そこには、前村先生のアップの写真が。
《出家した生徒達!》
これは、外から撮影した教室の風景だ。
窓際には、丸刈りにした男子生徒達が席を並べて授業を受けている様子だ。
何てことを…!
『な、何だよこれは!』
『俺と冬菜でドローンで撮影したんだ。生徒達の顔はぼかしてあるから問題ないだろ?』
そういう問題か?
《教祖の制裁を受ける生徒!ひどい…》
そして、俺のボコボコにされた動画が貼付されていた。
これも、俺の顔はぼかしてある。
『な、何てことをするんだ!』
『え?何が?』
『先生の顔をモロに出しやがって、みんなの写真も…!』
『何で?これぐらい必要じゃない?この教祖気取りを成敗するには?ただの私利私欲で人を踏みにじるとか重罪じゃない?』
兄ちゃんはしれっと答えている。
自分のしたことに、何の悪気もないのか?!
酒屋の兄ちゃんは、スマホをポケットに入れてお茶を飲んでいる。
『星天診療所の有馬先生のところに、相馬愛里が母に連れられて受診したのが、夏休み前』
相馬…?
クラスの不登校になった、相馬?
夏休み前にはすでに学校には来てなかった。
『原因不明の頭痛、吐き気、倦怠感、不眠。有馬先生はすごいドクターだから、ピンときたみたいだけど。強いストレス反応抱えてるって。メンタルクリニック通わせていたみたいだよ?』